老人はお気に入りの急須でお茶を入れ、お茶菓子用にらくがんを用意しながら、
「急須を見るとすぐに購入したくなる癖が直らなくて、俺は村一番の貧乏人なんだよ。」
「そんなことないですよ。良い趣味じゃないですか。」
「いやぁ、だめだ。だからずっと自家用車は軽トラックだもん。」
確かに自家用車は軽トラらしい。もみじマークのついた軽トラが庭先に無造作に停めてある。
話がどんどん身の上話が中心になり、このままだとテンションが下がってくるのを気にした私は、思い切って急須コレクションの話に戻すことにした。
「でも、お父さん。コレクションの急須は美しいだけではなく、とても使いやすいようですね。」
「そうだよ。良くわかるねぇ!用に徹することは美を呈することだからね。」
「えっ?今なんて言いましたっけ?ヨウを徹するとは、機能を追及することですね。」
「うん、そうじゃよ。」
「機能を追及することとが、美を創出することと言う意味ですね。」
「そうそう、美しいものは全て使いやすいもんじゃよ。」
「ここまで来た甲斐がありました。実は以前から小布施の街づくりに興味があって・・・、昨夜急に思い立ってここまで来たのです。」
「そうじゃったのか。またいつでも寄ってくれ。」
そう言って、おもむろに私に一枚の名刺を突き出した。
「神戸 能歩維(かんべ のぶただ)とお読みになるのですか?凄いお名前ですね。」
「いやぁ、恥かしいなぁ。名前負けしとるから、村一番の貧乏人なのよ。」
恥かしいそうに照れ笑いする老人をあとに次の目的地へと向かいました。
つづく(残り1回でおしまいです)
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